個人再生の基礎知識
2021.09.13
目次
個人再生について知っておくべきこと
借金について相談に来られる方の中には、「家族には内緒にしているのでばれないように手続きを進めたい」といった希望をおっしゃる方がいます。
個人再生は、借金を大幅に減額する債務整理の方法で、「借金の返済は苦しいが、マイホームは手放したくない」という方には大きなメリットがあります。
個人再生の対象となるには条件があるので、まず自分自身がその条件に当てはまっているかどうかを確認してみましょう。
個人再生が借金に与える効果
個人再生は利息だけでなく、借金の元本も減額する
個人再生は借金残額に応じて、借金を5分の1から10分の1程度に大幅に減額してもらうことができます。
例えば、500万円の借金があった場合、減額された100万円を期間内に返せば、完済となる可能性があります。
任意整理は借金の利息だけを減額する
個人再生とは違い、債権者と直接交渉を行うのが任意整理です。利息のカットや返済期間を延ばしてもらうなどの交渉をして、月々の返済金額や総返済額を減らします。
ただし、借金の元本は減額されないので、借金残高が多い方は個人再生の方がメリットが大きいでしょう。
自己破産は借金をゼロにする
自己破産は個人再生と同様、裁判所に申立てをする債務整理の方法です。原則、すべての借金の返済を免除してもらうことができます。
個人再生よりも減額効果は大きいのですが、自分の財産を手放す必要があったり、借金の理由によっては、免責が認められないケースもあります。
個人再生のデメリット
ブラックリストに載る
個人再生をすると、貸金業者のブラックリストに載るため、5年間はクレジットカードやキャッシング、カードローンの利用ができなくなり、10年間は金融機関から住宅ローンなどの融資を受けることができません。
官報に載る
官報とは、国が発行している新聞のようなもので、個人再生をすると3回にわたり、氏名と住所が官報に掲載されます。
しかし、一般の方は官報の存在自体を知らず、官報が原因で周囲にバレる可能性は極めて低いでしょう。
収入が安定している人に限られる
個人再生は手続きが終了した後も、返済を続けなければならないので、継続的に安定した収入を得ることが最低限の条件になります。
そのため、失業中の方や生活保護受給者、専業主婦はほぼ認められず、パートやアルバイトの方も難しいケースがあります。
個人再生を選ぶべき4つの特徴
借金の残高がかなり多い
借金の金額が小さく、利息の免除が認められたら、後は自力で借金完済ができる方は、手続きがスピーディな任意整理をおすすめします。
個人再生は借金の元本を大幅に減額できるため、借金残高がかなり多い方は、個人再生を選択したほうが良いでしょう。
自宅を手放したくない
個人再生は、住宅ローンの支払いを継続することを条件に、自宅を手放すことなく、住宅ローン以外の借金の減額を認めてもらえる「住宅ローン特則」を利用することができます。
例えば、銀行から住宅ローンを2,000万円借りて、消費者金融から無担保ローンを500万円借りている場合、住宅ローンの支払いはそのまま継続し、無担保ローンを100万円まで減額してもらうことができます。
自己破産の場合は、住宅ローンに設定されている抵当権が実行され、自宅を失ってしまいます。
職業の資格制限があると困る
自己破産の場合、一定期間は弁護士や税理士、保険会社や証券会社の営業マン、建設業者などの職に就くことはできません。そのため、休職や転職をしなければならないケースも出てきます。
個人再生の場合には、こうした職業や資格の制限は一切ありません。
借金の原因が浪費である
自己破産では、借金の原因がギャンブルや投資の失敗、浪費などの場合には、借金の免責が裁判所に認められないケースがあります。
個人再生の場合には、どのような経緯で借金を作ったかは問われません。
個人再生の条件
個人の借金であること
個人再生は、あくまでも個人の借金について申立てをする手続きです。
法人の借金については、民事再生の利用を検討する必要があります。
住宅ローンを除く借金が5,000万円以下であること
個人再生は、減額された借金を毎月返済していく手続きです。そのため、継続的に安定した収入が得られる見込みがない場合は、再生計画案が認可されません。 ただし、小規模個人再生の場合は、収入にある程度の変動があっても、債権者の過半数の同意があれば再生計画案は認可されます。
手続き費用を準備できること
個人再生を申立てると、再生計画案が認可されるまでに、弁護士費用とは別に手続き費用が必要となります。一括で支払うわけではないのですが、まとまったお金を今すぐ用意できるかどうかを事前に確認しておきましょう。
実際にいくらかかるのかは、後ほど「個人再生にかかる費用」の項目で詳しくご説明いたします。
個人再生を弁護士に依頼するべきポイント
個人再生を弁護士に依頼せずに行うデメリット
個人再生の手続きは、弁護士に依頼せずに債務者自身で行うこともできます。
しかし、その手続きは複雑で多くの手順を踏む必要があり、法律の知識がない人が行うのは多大な労力と時間を要します。
実際、個人再生を申立てるほとんどの方は、弁護士に依頼しています。その理由は何でしょうか。
弁護士に依頼しない場合の3つのデメリット
①個人再生に失敗するリスクが高くなる
個人再生の手続きには、申立書類の作成や履行テスト、債権額の調査、再生計画案の作成など、数多くの書類を揃えて、裁判所に提出する必要があります。 もし重大な不備があったり、申立て要件を満たしていない場合は、却下や棄却となってしまいます。
また、再生計画案で自分に都合のよい返済計画を作成すると、債権者から同意を得られず、裁判所の認可も得られない可能性があります。
②個人再生委員が選任され、その報酬を負担する
個人再生を自分で申立てた場合、裁判所によって「個人再生委員」が選任されます。個人再生委員は、手続きが適正に進められるよう裁判所を補佐する人です。
その際、個人再生委員の報酬を予納金(約25万円)として、申立て人自身の負担で納める必要があります。
自分で個人再生を申立てて、弁護士費用をカットできても、このような費用が発生します。
③予納金が高くなる(東京地方裁判所の場合)
東京地方裁判所では、弁護士からの申立てであっても、全件で個人再生委員が選任されます。
その理由として、東京地方裁判所では申請件数が多いこと、予納金を分割で支払わせることで、再生計画の履行テストを行うことを目的としています。
ただし、自分で申立てをした場合の予納金は約25万円ですが、弁護士に依頼した場合は約15万円に減額されます。
個人再生に失敗するとどうなるか
①再度の申立ては可能だが、難易度が上がる
再度、申立てることは可能ですが、再生計画案が債権者から同意を得られず、不認可となった場合は、債権者の理解を得る必要があります。
「小規模個人再生」ではなく「給与所得者等再生」の手続きを選択すると、債権者の同意は必要なく、認可を得ることが可能です。
ただし、給与所得者等再生の手続きは複雑で、詳細な計算も必要になるので難易度が上がります。
②弁護士に依頼すると二度手間となる
自分で申立てをして失敗した後、弁護士に依頼して再度申し立てることもできます。
しかし、手続きが簡略になることはなく、また最初からやり直しとなり、1回目の申立てでかかった印紙代や費用なども、すべて無駄になってしまいます。
③自己破産せざるを得なくなる可能性もある
個人再生に失敗した原因を解決できずにいると、その間に借金の遅延損害金が加算され、債権者からの催促も厳しくなってきます。
遅延損害金によって借金額が増えて、返済可能な再生計画案を作成できなかったり、借金額が5,000万円を超えると、個人再生を利用できず、自己破産しか選択できなくなることもあります。
個人再生を弁護士に依頼するメリット
弁護士に依頼すると、気になるのは費用ですが、その費用対効果がどれくらい大きいかを事前に確認しておきましょう。
(1)取り立てがすぐに止まる
弁護士は個人再生の依頼を受けると、「受任通知」を債権者に速達で送付します。受任通知が届いた後は、債務者に取り立てをしてはいけないと貸金業法で定められているので、すぐに貸金業者からの取り立てが止まり、苦しみから解放されます。
しかし、自分で個人再生の申立てをした場合、裁判所から開始決定が出るまでは厳しい取り立てが止まりません。
(2)複雑な手続きをすべて任せられる
弁護士は代理人として、個人再生のすべての手続きを代行します。複雑な手続きを自分で行う手間や労力を省くことができるので、安心して日常生活を送ることができます。
(3)個人再生に成功する可能性が高くなる
自分で行うと非常に複雑な個人再生の手続きですが、経験を積んだ弁護士にとっては難しいことではありません。
弁護士の専門的な知識や蓄積されたノウハウを活用することで、難しいケースであっても、個人再生に成功する可能性が高まります。
(4)柔軟な解決策を考えてくれる
個人再生には、小規模個人再生と給与所得者等再生の2種類があります。
小規模個人再生は給与所得者等再生にくらべて手続きが複雑ではなく、返済額も低額に抑えられますが、債権者の過半数の同意が必要になります。
給与所得者等再生は債権者の同意は必要ありませんが、条件が厳しく、手続きが複雑で返済額も高額になってしまう可能性があります。
どちらで申立てるのが良いのかは難しい判断ですが、弁護士に依頼すると、その方の事情に応じてベストな選択をして、最善の解決方法をご提案いたします。
個人再生手続きの流れ
ここでは、東京地裁の手続きをモデルとしています。東京地裁では、小規模個人再生と給与所得者等再生のどちらの手続きでも、個人再生委員が選任されます。
その他の地方裁判所では、(3)個人再生委員の選任、(4)個人再生委員の打ち合わせと履行テストが省略されることが多いでしょう。
(1)債権者に受任通知発送
個人再生の申立てを弁護士に依頼すると、弁護士は債権者へ「受任通知」を送付します。受任通知が届いた時点で取り立てがストップし、債権者からの連絡は弁護士が窓口になります。
(2)裁判所への申立て
申立ての準備ができたら、弁護士が代理人として、裁判所に個人再生の申立てと支払予定額の申告を行います。
その際に、債権者一覧表も裁判所に提出し、貸主に異議がないかの確認をして、借金額を確定します。
(3)個人再生委員の選任
個人再生を申立てると、まず個人再生委員が選任されます。東京地裁の場合は、申立ての当日に選任され、その他の地方裁判所でも、数日以内に個人再生委員が選任されます。
(4)個人再生委員との面談と履行テスト開始
個人再生の申立て後、1週間以内に個人再生委員と面談を行い、資産状況の確認が行われます。個人再生の手続き開始決定が出されるかどうかは、個人再生委員の判断が大きいので、面談には積極的に応じて、質問には素直に答えるようにしましょう。
あわせて、履行テストを開始します。履行テストは、本当に支払えるかを確認するシミュレーションなので、毎月きちんと振込みましょう。
(5)個人再生手続きの開始決定
面談の結果、個人再生手続きを進めてよいと個人再生委員が判断すると、その旨の意見書を裁判所に提出します。
裁判所でも個人再生手続きを進めてよいと判断されると、手続きの開始決定が行われます。
(6)債権届け出
個人再生手続きが開始されると、裁判所は債権者一覧表に記載された債権者に、債権の届け出をするように伝えます。これによって、各債権者は裁判所へ債権の届け出を行います。
(7)異議申立て
債権者が届け出た債権額が実際よりも多い場合は、申立人から異議を申立てることができます。
異議を申立てた場合は、個人再生委員による調査や裁判所への評価の申立てなどの手続きによって、債権額が確定します。
(8)再生計画案の提出
債権額が確定したら再生計画案を作成し、裁判所と個人再生委員(いる場合)に提出します。返済する借金の総額(住宅ローンは除く)、返済の方法、返済予定表をあわせて提出します。
(9)書面決議または意見聴取と再生計画案の認可
再生計画案を提出すると、小規模個人再生の場合は債権者による書面決議に従い、給与所得者等再生の場合は裁判所による債権者からの意見聴取が行われます。
書面決議では、不同意の回答をした債権者が総数の半分に満たず、さらにその債権者の議決権額が再生後の借金総額の2分の1を超えなければ、再生計画案が可決されたとみなされます。
しかし、債権者から書面決議で不同意の意見や、意見聴取で何らかの意見が提出されることはほとんどありません。
債権者が否決しなければ、裁判所による再生計画案の認可決定が行われます。
(10)減額した借金の支払いを開始
再生計画案が認可されると、再生計画に基づいて翌月から返済がスタートします。
その後、原則として3年間(36回払い)、最長5年間(60回払い)で再生後の借金を完済すると、残りの借金の返済は免除されます。
個人再生にかかる費用
個人再生を利用したいけれど、費用が心配になる方も多いのではないでしょうか。
そこで、個人再生手続きに必要な「裁判所に支払う費用」と「弁護士(司法書士)に支払う費用」について説明し、費用が工面できない場合の対処方法についてもご紹介いたします。
裁判所に支払う費用の目安
個人再生は裁判所で行われる手続きのため、一定の手数料などを納付する必要があります。
裁判所への費用が未納になると、手続きの棄却・廃止・不認可の原因となるので気をつけましょう。
(1)申立手数料
裁判所で行われる手続きを利用するときは、申立手数料を納付する必要があります。
個人再生を利用する場合は1万円かかり、申立書を裁判所に提出する際に収入印紙で納付します。
(2)予納郵券
個人再生手続きでは、裁判所から債権者へ書類を送付するための郵便費用を申立人が負担しなければなりません。郵便費用は現金ではなく、切手を予納します。
債権者の数によって必要な枚数が異なるので、本人が申請する場合は事前に裁判所に確認し、弁護士に依頼している場合は弁護士事務所で対応いたします。
(3)官報掲載費用
債務者から提出された債権者一覧表に漏れがあった場合に備えるため、手続き開始や再生計画が認可されたことを「官報」で公告します。官報は政府発行の広報誌で、この掲載費用も債務者が負担しなければなりません。
官報掲載料は約14,000円で現金で納付します。
(4)手続き費用(予納金:個人再生委員の報酬)
本人申請をして個人再生委員が選任される場合は、その報酬(約15万円~25万円)も債務者が負担します。
ただし、東京地方裁判所の場合は本人申請は25万円、弁護士申請は15万円になります。
弁護士(司法書士)に支払う費用
個人再生は複雑な手続きなので、専門的な知識やスキルを有する弁護士や司法書士に依頼する方がほとんどです。では、その費用はどれくらいかかるのでしょうか。
(1)弁護士や司法書士に業務を依頼したときに発生する費用
弁護士や司法書士に裁判所の手続きなどを依頼した場合、着手金、成功報酬金、日当、事務手数料などの費用が発生します。
(2)個人再生手続きを依頼した場合の弁護士(司法書士)費用の目安
①着手金
着手金は、弁護士や司法書士に依頼するときに発生する報酬で、たとえ個人再生に失敗した場合でも、支払わなければなりません。
着手金は20~60万円ほどで、住宅ローン特則を利用する場合には、さらに10万円ほど上乗せされます。
個人再生は準備に手間がかかる手続きで、提出する書類作成の負担も大きいため、任意整理や自己破産よりも着手金が高額になります。
②成功報酬
成功報酬は、弁護士や司法書士に依頼した業務が成功した場合にのみ発生する報酬です。
個人再生の場合は、裁判所に再生計画を認可してもらえた際に発生し、20万円ほどです。住宅ローン特則を利用した場合は、さらに5~10万円ほど上乗せされます。
③その他の費用
着手金・成功報酬以外に、依頼業務のために事務所を離れる場合の日当(1~5万円/1日程度)、過払い金の請求を行った場合の報酬(基本報酬金+回収額の20~25%程度)、各種実費などがあります。
(3)弁護士(司法書士)費用は「総額の見積もり」を示してもらうことが重要
最近では、「着手金不要」「成功報酬不要」という事務所も増えていて、そちらの方が費用が安いと思われるかもしれません。
しかし、「着手金が不要な分だけ、成功報酬が割高」「着手金や成功報酬は安いが、日当が高い」というケースもあるので気をつけましょう。
弁護士や司法書士の報酬は、必ず全費用の総額を比較するようにして、手続きを依頼する前に、費用総額の見積りを提示してもらうことが大切です。
個人再生手続きの費用を工面できない場合の対処方法
個人再生の利用を考えている人は、「裁判所や弁護士に支払う費用を工面できない」と不安に感じる方も多いと思います。その場合に、対処する方法をご紹介しましょう。
(1)弁護士・司法書士には「無料」で相談できる
自治体などで実施している法律相談会のほとんどは無料で利用することができ、弁護士や司法書士事務所でも、借金問題は相談無料(初回のみ、時間制限あり)という事務所も増えています。
債務整理にかかる費用が心配な場合には、質問や相談ができるので、弁護士や司法書士に直接尋ねてみてください。それぞれの状況にあった対処方法をアドバイスしてもらえるでしょう。
(2)法テラス(民事法律扶助)を利用する
法テラスによる費用の立て替えを利用できるのは条件があり、1ヶ月あたりの収入額や保有資産の総額が一定額以下の人に限られます。その金額は、申込者の居住地や同居する家族の人数、家賃や住宅ローン負担の有無によって異なります。
立て替えてもらえる費用は、裁判所に納付する手数料、弁護士や司法書士に支払う着手金・成功報酬金、その他の実費です。
ただし、個人再生手続きの予納金は自分で工面する必要があり、弁護士や司法書士の報酬額は、法テラスがあらかじめ定めている所定額になります。
そのため、法テラスを利用した方が、弁護士や司法書士費用が高くなるケースもあるのでご注意ください。
法テラスで費用を立て替えてもらった場合、立て替え払いが実施された翌々月から毎月1万円ずつの分割で返済します。1万円ずつの返済が苦しい場合は、毎月5,000円ずつの返済にすることもできます。
(3)分割払いが可能な事務所に依頼する
弁護士や司法書士費用は、原則は一括払いですが、最近では分割払いが可能な事務所も増えています。
弁護士や司法書士に個人再生を依頼したときには、毎月の借金返済は債務整理が終わるまでの間、一時的にストップすることになりますが、着手金の支払いを終えなければ、個人再生の申立てを行ってもらえません。
会社の民事再生について
民事再生を利用できる会社の条件
民事再生手続きは、会社を存続させたまま債務を減縮して、再生を図る大きなメリットがあります。しかし、利用するためにはいくつかの条件を満たす必要があります。
(1)法律上の申し立て要件を満たすこと
会社が民事再生を申立てることができるのは、次のどちらかに該当する場合です。
●破産の原因となる事実が生じるおそれがあるとき
●債務者が事業の継続に著しい支障を来すことなく、弁済期にある債務を弁済することができないとき
民事再生は会社が潰れてしまう前に再建するための手続きなので、破産よりも前の段階での申立てが認められています。
(2)会社が収益を改善できる見込みがあること
再生債務を返済しながら、黒字経営をしていける見込みがなければ、民事再生手続きは利用できません。そのため、事業内容・体制の見直しやリストラなどで、コストを削減することも重要になります。
(3)できる限りスポンサーがいること
民事再生手続きを利用すると、銀行から融資を受けられなくなります。そのため、手続き中の運転資金などを支援してくれるスポンサーを確保したり、公表することで、「倒産」という負のイメージをなくし、取引先を保持することができます。
(4)一定の費用を準備できること
民事再生手続きを利用するには、裁判所への予納金・監督委員への報酬・申立てを依頼する弁護士への報酬・一定期間の運転資金が必要になります。
全体で数千万円の金額が必要になることもあるので、スポンサーを早期に確保することが重要です
(5)未払いの優先債権が多くないこと
優先債権とは、税金や社会保険料、従業員の給料・退職金など、借金よりも先に支払うべきお金のことです。
優先債権は民事再生によっても免除されず、すべてを支払う義務があります。未払いの優先債権が多いと債務の返済や運転資金が少なくなり、再生計画案の履行が難しくなります。
(6)民事再生の申立てに反対する債権者が少ないこと
民事再生は、債権者の過半数および再生債権総額の2分の1以上の同意を得なければ、再生計画案が認可されません。
借入先の金融機関が強固に反対している場合は、民事再生を利用できない場合もあります。そのため、今後の収益改善が見込まれる事業計画を示し、信用度の高いスポンサーを確保することが重要です。
民事再生手続きのメリット
(1)会社の経営権を失わずに、事業を継続できる可能性がある
民事再生法は再建型の手続きなので、破産手続きのように会社を清算することなく、経営陣の退陣も必須ではありません。
経営者にとっては、経営権を失うことなく、事業を続けられるという点が大きなメリットです。
(2)負債を大幅にカットしてもらえる
裁判所に認可された再生計画に基づいて、負債を大幅に圧縮してもらうことができます。
減額された債務は、弁済期間を原則10年間の分割払いに延長することが可能なので、再生に取り組みながら、着実に返していくことができます。
(3)手元資金を確保できる
民事再生を申立てた場合、裁判所によって「弁済禁止の仮処分」が下されます。
そのため、取引先からの未回収金の取り立てや、手形決済を認めてもらえないなどの問題の発生を止めることができ、手元資金を確保することが可能になります。
(4)柔軟な対応が認められる可能性がある
再生計画によって大幅な債権の減額を行ったことで、取引先の経営が先に破綻してしまうと、再生計画の履行が不可能になってしまいます。
その場合には、取引先への支払いを他の債権者より優先して行うことが認められる場合もあります。
(5)経営者保証ガイドラインを利用できる場合も
会社の融資に対する経営者の個人保証がある状態で、会社を倒産させると、経営者自身も連鎖倒産しなければならなくなります。
しかし、民事再生では「経営者保証ガイドライン」を適用することで、経営者保証の負担を減免してもらうことができます。
民事再生手続きのデメリット
(1)監督委員による監督
民事再生では、原則として全件で監督委員が選任されます。監督委員は、民事再生手続きや再生債務者の経営建て直しが適正に進められているかどうかを、監督・支援する役割があります。
裁判所が指定した行為については、監督委員の同意がなければ、債務者は行うことができません。監督委員は特定の行為について、否認権を行使したり、そのために必要な範囲で財産の管理・処分をすることができます。
(2)経営者が変わらないことがデメリットになることもある
経営者にとっては、経営権を失わずに負債を減らすことができるのはメリットです。しかし、事業の行き詰まりが経営陣の判断ミスである場合には、引き続き経営にあたることで建て直しに失敗することもあり得ます。
経営陣に対して債権者が強い不信感を抱き、理解や協力が得られない場合は、民事再生を申請してもうまくいかないケースが少なくありません。
また、担保権者の存在が事業継続の可能性や収益改善に大きな影響を与える場合には、担保権者の意向を無視できない場合が多いでしょう。
債権者の理解・協力を得るためには、申請に先立って社会的に信用のあるスポンサー企業を確保することが重要です。
(3)債権者の足並みが揃わないリスク
再生計画の認可には、債権者の同意が必要になるため、債権者の足並みが揃わないと手続きが失敗してしまうリスクがあります。
再生計画を可決するには、頭数要件と債権額要件の双方を満たす必要があるため、債権額の過半数を超える大口債権者がいる場合には、たった1人の意向で再建計画案が否決されてしまうこともあり得ます。
(4)債務免除税の負担
再生計画の認可によって負債が減免されると、再生債務者の利益と考えられ、納税の義務が発生します。
法的知識が十分にない人が再生計画をつくった場合には、この債務免除税の負担を見過ごしたために、資金繰りに支障が生じることもあります。
民事再生は専門知識やスキルを要する交渉や、配当可能額の算出、さまざまな書類作成などの負担も発生します。デメリットを小さくするには、弁護士をはじめ、会計士・税理士といった専門家の支援が必須となります。
まとめ
個人再生は、多額の借金がある場合でも、自宅などの財産を処分することなく、借金を大幅に減額できる債務整理の方法です。自己破産と違い、借金の理由は問われません。
しかし、継続的に安定した収入を得ることが最低限の条件で、手続きは複雑で期間も費用もかかります。
民事再生は、会社を存続させたまま債務を減縮し、手続きに成功すれば再建することが可能です。
経営者は経営権を失うことなく、事業を続けられる点が大きなメリットです。
しかし、手続きは複雑かつ厳格で、債権者の意向を伺い経営戦略を改善するなど、重要な作業が多くあります。
借金問題でお悩みの方、負債や資金繰りに苦労している経営者の方は、ぜひ一度、弁護士にご相談ください。