1.債務者の経済生活の再生の機会を
確保する制度「自己破産」といいます
自己破産は、借金の返済ができなくなってしまった債務者が裁判所に申し立てを行い、債務者の財産を債権者に公平に分配するとともに、債務者の借金を帳消しにして(このことを「免責」といいます)、債務者の経済生活の再生の機会を確保する制度です。
自己破産手続は大きく2つに分類されます。
(1)「破産管財人選任事件」(「管財事件」)
債務者の財産をお金に換えて債権者に分配するなどの手続きを行う破産管財人が選任される。
(2)「同時廃止事件」(「同廃事件」)
破産管財人が選任されることなく破産手続の開始と同時に手続きが終了するもの。
管財事件になるか同廃事件になるかで,手続の流れは大きく変わります。
2.同廃事件の流れ
(1)破産手続開始と免責許可の申立て
弁護士に自己破産手続の申立てを委任した場合、弁護士が申立代理人として必要書類を裁判所に提出し、破産手続開始と免責許可の申立てを行います。
申立てをすると、裁判所は破産手続きを開始するかどうか、管財事件と同廃事件のいずれにするかを判断することになりますが、破産法8条2項は、「裁判所は、職権で、破産手続等に係る事件に関して必要な調査をすることができる。」と定めています(「職権」とは、裁判所が自らの判断で行うことをいいます)。
したがって、裁判所が必要と判断した場合、代理人や債務者との審尋(面接)が行われることがあり、裁判所は提出された書類と審尋の内容を踏まえて、破産手続きを開始するかどうか、管財事件と同廃事件のいずれにするかを判断します。
(2)裁判所が同廃事件と判断をした場合
破産手続開始の決定と同時に、破産手続きを終了する決定がなされます(「同時廃止決定」)。
同時廃止決定がされると、あとは免責を許可するかどうかの判断が残ります。
債務者は、免責許可(あるいは不許可)の決定がおりるのを待つことになりますが、裁判所が必要と判断した場合には、免責調査のための審尋が行われます。
その結果、免責許可決定がおりれば、免責許可の確定(通常は免責許可決定から1か月程度)により債務者の借金が免除されます。
3.管財事件の流れ
(1)破産管財人の選任
破産手続開始決定までの流れは、同廃事件と特に変わりありませんが、管財事件の場合、破産手続開始決定と同時に破産管財人が選任されます。
破産管財人は破産手続きにおいて債務者の財産を債権者に分配すること等を含む多様な業務を担っており、事実上法律上の困難な問題も含むことから、弁護士が選任されるのが一般的です。しかし申立人が破産管財人を誰にするか選ぶことはできず、裁判所が種々の事情を総合的に考慮の上で、誰を破産管財人にするか決定します。
(2)債権調査及び破産財団の換価
破産管財人が選任された場合、原則として破産者の有する一切の財産の管理処分権は破産管財人に専属し、破産者は管理処分権を失います(このように破産管財人に管理処分権が移った財産を「破産財団」といいます)。
破産管財人の大きな役割の1つは、破産者の財産を換価して債権者に分配することにありますから、破産管財人は、破産手続きが開始され破産財団が形成されると、破産財団の価値を劣化させないよう、速やかにかつ適時に破産財団を換価していきます。それと併せ、破産管財人は債権調査を行い、債権者及び各債権額等を確定させます。
(3)配当
破産財団の換価と債権調査が終了すると、破産管財人は配当を行います。
すべての換価が終了する前に部分的に配当を行うこともありますが(これを「中間配当」といいます)、すべての換価が終了した後にまとめて配当を行う最後配当が原則とされています。
(4)債権者集会
上記の破産財団の換価、債権調査及びそれに続く配当の作業と並行して、約3か月に1回程度の頻度で債権者集会が開催されます。
債権者集会とは、債権者に対して破産手続の進行や破産者の財産状況等について情報を提供するとともに、破産管財人が行う管財業務に関わる重要事項について意思決定をするため、破産管財人・破産者・債権者で開催される集会をいいます。
債権者の数や債務総額の少ない個人破産では債権者が誰も参加しないことも多いですが、債権者は自由に債権者集会に参加し、免責等に関する意見を述べることができます。
債権者集会は、破産管財人による配当手続が終了するまで繰り返し開催されますので、破産者はそれまで継続して出席しなけらばなりません。
(5)破産手続及び管財人の任務終了
配当手続の終了により破産管財人の任務が終了すると、破産管財人は計算の報告書を裁判所に提出し、計算の報告のための債権者集会が開催され、計算が債権者等からの異議なしに承認されると破産手続が終結します。
(6)免責許可決定又は不許可決定
破産手続が終結すると、同廃事件と同様にあとは免責許可(又は不許可)決定がおりるのを待つのみとなり、免責許可決定がおりれば、免責許可の確定(通常は免責許可決定から1か月程度)により債務者の借金が免除されます。
なお、管財事件の場合、債権者集会が免責の審尋期日を兼ねていることから、破産手続き終結後に免責の審尋が行われることは基本的にありません。
4.生活再建のために、速やかな免責許可決定を目指しましょう
以上が自己破産手続の大まかな流れですが、弁護士に相談に行ってから免責が確定するまでには、同廃事件でも短くて半年程度はかかることが多く、管財事件になるとさらに長期間がかかります。
その間、破産者は弁護士等が手続きを進めるのをただ待っていればよいわけではなく、申立てのために必要な書面を記入したり、書類を取り寄せたり、弁護士との打ち合わせのために事務所を訪問したりしなければなりません。
また、管財事件になった場合には、財産調査や免責不許可事由の調査のために破産管財人の事務所に呼ばれて話を聞かれることもあります。
これらの手続きに破産者自身が真摯に協力することが、より速く免責許可決定を得て生活を再建していくために不可欠です。